―――バサバサ…ッ!

何かがキメラの隣に降り立った。


「…兄貴ぃ。その姿も結構きついんじゃないっすか?」

背中に生えていた翼が消えていく。
兄貴と呼ばれたキメラが、ゆっくりと動き出した。


「…あの小娘達、なかなかのものだな」

突然しゃべり出した。
トカゲの手足が、徐々に人型になっていく。


「髪を結んでいた娘、簡単そうに“ロッソネ―ヴェ”使ってたな。…その魔法、対魔物用の上級魔法だぜ?」

手足の次に胴体、そして顔も人間へと変わった。
キメラの相棒は、伸ばした横髪を指にクルクルと絡める。赤い髪のせいか、指から血を流しているように見えた。

「そんでもって、もう一人はリルダの首飾りを持ってたっすよ。あいつが、ボスの言ってた奴じゃないっすか?」

「…フッ、そうかもしれねぇな」

鼻で笑う。

「だが、もう少し泳がせておこう。面白いことになりそうだ」

「ハハッ、そうっすね」

笑って同意する相棒を横目に、完全に人間になったキメラは歩きだした。
後ろから赤髪の相棒が着いてくる。

「なぁなぁ兄貴」

「なんだ、ニワトリ頭」

「っ?!ニワトリじゃないっすよ!それに、俺にはちゃんとレイムって名前が…」

キメラは軽く聞き流しながら、歩いていく。
あまりにも五月蝿いので腕を鴉に変え、レイムの頭を叩いた。

「痛っ!」

「名前を呼んで欲しけりゃ仕事をしろ」

ギロリと睨む。

「お前の代わりなんか腐るほどいるんだ」

「――――っ!」

全身をキメラに変えて空へと羽ばたいた。
黒い羽根が妖しく光る。

「兄貴!どこ行くんっすか!…ゴホッゴホッ!」

砂ほこりが舞う。

それに目もくれず、キメラ人間は飛び去っていった。


「兄貴…」

空を見上げる。
もう兄貴の姿はない。
遠く彼方に黒い翼が見える。

「……兄貴!俺、絶対に名前で呼んでもらえるようにな…」

ゴンッ!

「~~っ!」

「まだ甘いんだよ」

いつの間にかレイムの傍に来ていた。

「…へ~い」

首根っこをかぎ爪に掴まれ、レイムは大空へと飛んでいった。