そう言って、桜の木の周りをぐるぐると周り出す。
が、すぐにと止まった。


「どうしたの?」

「思い出した…。私ここに倒れるまで森の奥から走ってきたんだった」

後ろを振り向けば、鬱蒼と木々茂る森がある。
あの時は何が起こったのか全く分からず、混乱していた。

「もっと奥から来たんだ、私」

奥に何かあるかもしれない。

森へ向かおうとする明希をレクシスは腕を掴んで止めた。

「ちょっと待って、明希」

「レクシス?」

「行かない方がいい。最近、ここの森おかしいの」

険しい表情をするレクシス。
キメラがいるだけでも明希にとってはおかしいのに、それよりもっとおかしい事とはなんなのか、明希には想像もつかなかった。

「ほんの数日くらい前からなんだけど…キメラが集団で移動していたり、突然暴走して、村を襲ってきたりしているの」

レクシスはため息を吐いた。

「そっか…この森は危険なんだね」

「えぇ…。だから今は行かない方がいいよ。ごめんなさい」

「レクシスが謝ることないって、危ないんだから仕方がないよ」

明希は笑った。
本当は一秒でも早く帰り道を見つけたいが、ここで襲われて死んでしまっては元も子もない。

―――――ガタガタッ…

すると、急に小さな地震のように地面が揺れ始めた。

「ん?なんだ…?」

「っ!?明希!キメラよっ!」

レクシスに手を引かれ走り出した瞬間、森から暴走したキメラが姿を現した。

「うわっ!」

頭はサメで体はゴリラ、手足は象で尻尾が猫だ。

「明希下がって!」

レクシスが手を翳した。


「ロッソネ―ヴェ!」

―――バシュッ!…………



だが、キメラの動きは止まらない。

「レクシスッ!」


魔法が効かなかったキメラは、真っ直ぐレクシスに向かって行く。

「危ないっ!」

明希は弾かれたようにキメラに向かって走り出した。

「あ、明希っ!」

「私の友達に…」

グッと左足を踏み込んだ。