一方、明希とレクシスは…


「…ふぅ、ここまで来れば大丈夫だよね」

大きく深呼吸して息を整えた。
チラッと横を見るとレクシスは、まだ息が荒い。

「大丈夫?」

陸上部員の明希には、これくらいの距離を走っても朝飯前だ。
レクシスはコクリと頷くが、かなりきつそうだ。
明希は服のポケットを探った。

「……あった!」


手を抜き出すと明希の手には飴が握られていた。

「これ、あげる」

飴を差し出すと、レクシスは嬉しそうに笑った。

「ありがとう、でも…貰っていいの?」

「いいよ。食べて元気だしてっ」

そう言われてニコリと笑い、包みを開いてポンと口に入れた。
「んっ…」

急に口を窄めた。
レクシスの持っている包みには“レモン”と書かれている。

「ごめん、すっぱかった?」

「ううん、大丈夫。私、レモン好きだから」

レクシスの顔に笑顔が戻った。

「さ、あと少しだよ。その、大きな木の下に倒れていたの」

指を差す方向には、ちょっとした丘がある。
丘には大きな木が立っていた。

「わぁ、ホントに大きいね。なんていう木?」

「あれはね、“サクラ”っていうんだよ」

「えっ?!桜!?」

明希は木に駆け寄った。


まだ葉だけだったが、確かに桜だ。
なんでこんな所にあるのだろうか…。

呆然としている明希にレクシスは話し出した。

「…このサクラはね、30年くらい前に誰かが植えたんだって。女性で、リルダ女神の子孫だったみたい。それで、明希が持ってるネックレスをしていたらしい」

「そっかぁ…」

一瞬、母の顔が浮かんだ。

「…ねぇ、その人の名前ってわかる?」

明希が尋ねると、レクシスは曖昧な表情を浮かべた。

「実は、名前とか写真とか…身元が分かるものが何一つ残ってないの。彼女がいなくなった後に、この国で戦争が起こって…ね」

「……そっか」

レクシスの表情が陰る

「…どうしたの?大丈夫?」

「え…あ、うん。何でもないよ」

笑ったがどこか引き攣っている。

「それよりも、明希はここで何をするの?」

「元に戻れるか調べるの。ここに倒れていたなら、ここから元の世界へ帰れるかもしれないから!」