「……何を呆けている」

「…え…」


いや、だって。


私は驚いていた。

何をって。
先生の教え方に。

巧い。

はっきり言って滅茶苦茶教え方が巧い。

今教えてもらっているのは歴史で、私の苦手分野のトップを守り続けている教科なのだが、馬鹿みたいにスンナリ頭に入ってくる。

…なんで?

この人、現国の先生なのに。

しかも現国の授業うけてるとき、こんなに教え方巧いと思った事なかった。

…と、馬鹿正直に言ってしまった私を不機嫌そうに睨んで先生は口を開いた。


「個人に教えるのと集団に教えるのは違う」


言い訳ではない、と一言添える所が何やら子供っぽく感じられて笑いそうになる。

そんな私を拗ねた様に一瞥して先生は続ける。


「君は現国の成績はさほど悪くない。例題問題にも弱くない。しかも女子には珍しく公民に強い。生物と英語も然り。しかし化学記号や数学のグラフ、歴史の年表となると見事に成績が悪い。つまり君は勉学という分野において、自分に関係ないものや単独で孤立した方程式や数字などを覚えるという事に意味が見いだせないのだろう」


図星だ。

その通りだった。

化学変化とかは好きだが記号に興味はない。

計算は嫌いではないがグラフや定まった数式に興味はない。

歴史の人物や出来事は好きだがそれがいつかなどはどうでもいい。

私の人生において役に立つとは思えないからだ。

それをこうも見事に当てる先生は実は物凄く頭がいいのではなかろうか。


「先生すごいです。その通りです。でもなんで私の全成績知ってるんですか?」


先生は呆れたような顔をした。


「副担任だが?」


いや、まあ、その。


「でも、副担任だからってあまりに詳しい気がして」

「君達が思っている以上に担任と副担任はクラスの生徒を把握している。家庭環境は別だが」


素直に感心する。

確かにさっきの成績の件といい、思っている以上に先生という人達は生徒の事を考えてくれているらしい。

自分の事を影で親身に考えてくれている人がいる…。

なんだかくすぐったいような変な気持ちになる。


「家庭環境は別なんですか?」

「そこは意識的か無意識か生徒が隠す。もう少し我が儘に主張してくれればできる事もあるんだろうが…」


そこまで呟いて先生はハッとした様に瞬きをした。


「…すまない。生徒に言う内容ではなかった。忘れなさい」


気まずそうに咳払いとかで誤魔化す姿を見て私は、ああこの先生好きだなあ…と思った。