私は部長を殴るのを諦め、処遇を久保に任せることにする。

頭に血がのぼっていたときに吐いた幾つかの乱暴な台詞を素直に謝罪し、オフィスに戻ろうとして、


「待て」


壁に縫い付けられた。


えっ。

最後の最後で私、何か機嫌損ねた?

青ざめながら久保を見ると、どこか所在なげに口元を歪めている。


「…返事は」

「は?はい」


とりあえず返事をすると、
違うと怒られた。


「俺は愛してると言ったはずだ」


心なしか、その頬が赤い。


「は?はあ………えっ!?」


そういえば。

…言われた。

でもあれはハーレクイン的なソレであって……

え、返事、いるの?

今?


「そ…そんなふうに久保さんを考えたことなかったので」


無難に逃げると、


「なら今から考えろ十秒後返事だ」


難題で返してくる。

子供のような言いぐさに、不覚ながら可愛いとか思っている自分がいる。

まずい。

何か策に嵌っている気がする。


「10」


え、カウントするの!?

わたわたしながら返事を探す。


「9」


ちょっと、
ちょっと待って。

そんな
こんな急に。


「8」


数えながら、久保の顔が迫ってきているのがわかった。