印籠を見せられた人は大概絶句する。

私も例外にならずそうなったようだ。

何か言おうと思うのだけれど全く頭がついてこない。


「名目めあての女どもにまとわりつかれるのも億劫なので黙っていた。おかげで見えるものもあった。いい収穫だ」


ひとりやたらと満足げな久保を眺めていて、なんだか、力が抜けた。

少しだけ、笑える。


よかった、と、思う。

よかった、と。


現実は何もよくなっていない。

部長はクズだし白井は馬鹿だし彼女は仕事来ないしお腹の子の未来は不安定だ。


でも、

久保みたいな人間がいて、ちゃんと正しい事を正しく見てくれる人がいること、それは
素晴らしいことなんじゃないかな。

それを私は知ることができた。

それはまぎれもなく幸せなことなんじゃないかな。

そう思った。


それを幸せと思えただけでも、


ねえ、


脇役人生も捨てたものじゃないよ。