反省したのかと思った。

けれどそれは甘かった。

私はいつもそう。

肝心なところで、甘い。

白井は皮肉げに笑って立ち上がった。


「お高くとまるなよ」


胸が悪くなるような顔のまま私に近づき耳元に口を寄せる。


「羨ましいんだろ。自分より下の女にいいところばっかりとられて。心の中じゃザマミロと思ってんだろ。ヤり逃げされてザマアミロって」


そして、
囁かれる。


「本命として、…抱いてやろうか」





殴った。





渾身の力で殴った。

人を殴ったのは生まれて初めてだ。

白井は倒れ、驚愕しながら私を見上げる。


羨ましい?

そう、羨ましかったよ。

恋にオシャレにきらきらする彼女たちが可愛くて、羨ましくて仕方なかったよ。

どうして私は脇役なんだろう。

どうして彼女たちはあんなに綺麗なんだろう。

どうして私に劇的なロマンスがないんだろう。

どうして劇的なハプニングがないんだろう。

どうして劇的なパニックがないんだろう。

どうして私はいつも外側にいるんだろう。

『同僚A』なんだろう。

『通行人B』なんだろう。

『女C』なんだろう。

でも私は妬んだりしなかった。

脇役は脇役としてちゃんと生きてきた。


羨ましいから、
ザマアミロ?

妬ましいから、
陰で悪口?

悔しいから、
陥れる?



……女、

…ばかにすんな。



お前らなんか
人間じゃない。


「この…っ」


正気を取り戻した白井が、殴りかかろうとしてくる。

上等だ。
殴ればいい。

女に本気で手をあげたクズ野郎として祭りあげてやる。


そう意気込んでいたけれど、その拳は私に届くことはなかった。

鈍い音はしたけれど私に痛みはない。

見ると、私の横に久保がいて拳をおろしたところだった。


「避けるくらいの気概を見せろ」


どうやら庇ってくれたらしい。

足元には白井が今度こそ伸びていた。