数週間経った。

彼女はしばらく前から仕事を休んでいる。

どうなったのか気になったけれど、こちらから突っ込んで聞くのも違うと思って過ごしていた。

そんな中、喫煙ルームの横を通りかかったとき、白井さんの声を耳が捉えた。

たとえ彼女の件があったとしても盗み聞きなんか私はしない。

けれど、思わず足が止まった。


「堕ろすの当たり前だろー?」


ふざけたような軽薄な声が、不吉な言葉を吐いたからだ。

自分の耳が信じられなくて唾を飲む。

しかし残虐な声は非情な台詞を吐き続けた。

「俺があんな下っぱ社員と結婚するとでも思ってるのかよ。身の程を知れよって話だよ。
若いうちは入れ喰い状態だから遊んでおけ、が、うちの部長の信条だしな。そうしてるだけ。だいたいあんなにすぐ体開く女だろ。俺の子じゃないかもしれないぜ」


頭が真っ白になった。

次に、震えがきた。


私は脇役だから聞かなかったことにできる。

私は脇役だから腹をたてる義務はない。

私は脇役だから首を突っ込むべきじゃない。

私は脇役だから。

私は脇役だから。


私はーー……。




そんなこと、

知るか。





喫煙ルームのドアを勢いよく開け、白井を睨む。

白井とその同僚らしい男はぽかんとしたが、一瞬だけ気まずそうに目を伏せた。


「最低です」


低くそう言う。


「あの子が、浅はかだったのはわかります。本気で貴方のこと好きなのかどうかも知らない。子供の親だって確かに私にはわからない。でも。女性をそんなふうに扱う貴方の精神は最低です」


少しだけ、

沈黙が流れた。