マリアはあれから仕事を辞め、海の近くに二人で住めるぐらいの小さな部屋を貸りた。徳二郎はもっと贅沢をしても言いといったが、急に生活が変わってしまうのが何だか怖い気がしたのだ。だが、仕事をしなくても生活できる蓄えを徳二郎は十分持っていたので、二人は一日一日を大切に、それこそ離れることなく時間を共に過ごした。夕暮れの砂浜を散歩したり、夜になれば花火で子供のようにはしゃいだり、過ぎゆく夏の終わりを二人で見送る。やがて来た秋は、色鮮やかに染まる木々の中を、二人で手を組んで散歩するのが日課となった。取りとめのない会話。そんな中に小さな幸せを見つけるのが嬉しい。マリアと徳二郎の愛は、永遠に思えた。