正面玄関を出ると、横付けするように一台の黒いベンツがとまっていた。徳二郎とマリアの姿を見て、運転手が降りて後ろの座席のドアを開けた。
「お待ちしてました、中嶋先生。院長からお話は聞いております。さ、どうぞ」
「ありがとう、田村さん」
 徳二郎はそう言うと、マリアの手を引き、車に乗るよう促した。マリアが戸惑っていると、「大丈夫だよ。これは原田の車だから。僕がおねがいしたんだ」と言う。マリアは田村と呼ばれた運転手にちょこんとお辞儀をしてから後部座席に乗り込んだ。すぐに徳二郎も乗り込み、ドアが閉まる。田村が運転席に座り、人の良さそうな笑顔で徳二郎に「じゃあ、出発しますよ」と、ハンドルを握った。マリアも無意識に徳二郎の手を握り、この後行き先のわからない旅へと出発した――。