時間通りに病室にまた来ると、ベッドにはマリアが布団をかぶって横たわっていた。たぶん着替えが間に合わなかったのだろう。シャワー室の前には上半身裸で、髪を拭く徳二郎がいた。
「ごめん、食前の薬だね。今飲むよ」
 徳二郎が原田の方へ行こうとベッドの脇を通ると、布団の脇から美しく長い足がニョキっと出て徳二郎をとうせんぼした。徳二郎が「こら」とマリアに言うと、マリアは子供のように無邪気に笑う。すると原田が「これはこれは、いいものが見れた。どうせなら布団の中も見てみたいものだけどね」とおどけて見せた。マリアはベーッと舌を出し、足を引っ込める。
「私のは高いわよ。これで稼いでるんだから」
 原田が声を出して笑う。マリアは始め不審に思っていた原田の印象が変わっているのに気づいた。何よりも徳二郎の親友だ。きっといい人なのだと思う。
 原田が徳二郎に薬を渡してるときに「今日、ここに泊まってもいい?明日徳二郎と一緒に帰りたいの」
 マリアの申し出に、原田は了解してくれた。だが部屋を出る際にこんな捨て台詞を残していった。
「ここは一応病院です。アッチの方は程々に頼むよ」
 最後に原田がウインクをしたので、二人は顔を見合わせて笑った。