夕方近く、原田が徳二郎の病室を訪れると、シャワー室の方からクスクスと笑い声が聞こえた。徳二郎だけでなく、女の声も混じっている。無粋な真似はしたくなかったが、立場上黙っているわけにもいかず、シャワー室のドアをノックした。
「えー、コホン。すまないがそろそろ出てもらえるかな?薬の時間なんでね」
 笑い声が一瞬止まったが、またすぐにクスクスと笑い出す。原田が「むむ」っと唸って、再度ドアを叩くと、しばらくして中から徳二郎が顔だけ覗かせ言った。
「ごめん、貴之。今行くから外でまってて」すぐに顔を引っ込め、また中で笑い出す。原田はやってられないと言わんばかりにお手上げのポーズを取り、ひとつ溜め息をついて「五分したらくるからな」と、言い残し部屋を出た。