いつものようにマリアが制止するのもかまわず、徳二郎は変わらず、いや尚一層激しくマリアの体を愛撫する。この幸せな瞬間をどうして止められよう。身体の全てで徳二郎を感じたい。満たされたい。そして全てを愛したい。もつれたまま、ベッドへと倒れ込んだ。上になった徳二郎の顔をそっと撫でる。ああ、どうしてこんなに愛しいのだろう。艶やかな髪、整った眉、ほんの少し少し下がった目尻、そして曇りのない瞳に魅力的な唇を順に指でなぞる。愛している。その全てを。髪の先からつま先までの全て、いいえ、細胞の全てを愛していると感じた。そう、あの“アダム”さえも。
「どうして、泣いているの?」
 徳二郎に言われ、泣いている自分にはじめて気づく。自然と涙が溢れていた。これは…そう、喜びの涙。だのに徳二郎は心配そうに見つめ、マリアの頬に流れる涙を拭いながら「ごめん。僕があんなこと話したから」と言った。マリアが首を振ると、「じゃあ、どこかいたいの?」と聞いてきた。マリアは笑って徳二郎の唇にキスをした。泣いたり笑ったりするマリアに、徳二郎が困惑の表情を浮かべる。
「違うの、徳二郎。私、こんなに誰かを愛しいと思ったのは初めて。徳二郎が何歳でも、どんな病気だろうと、私は徳二郎を愛してる。だから、嬉しくて。嬉しくて涙が出るの」
 徳二郎もまた、マリアの話を聞いて涙を流した。なんと美しく、なんと幸せな涙だろう。二人はきつく抱きしめ合い、出逢えた幸福を神に感謝した。