テーブルの上にサラダとチャーハンが並ぶ。あり合わせで作った割には、まともな料理ができた。丸い小さなテーブルに向かい合わせでちょこんと座る。あんなに何度も愛し合った後だというのに、何だか初めてデートするカップルのようだと思った。「いただきます」と手を合わせ、チャーハンを口に運ぶ。「おいしい?」とマリアが聞くと、頬張ったまま大きく頷く姿がまたかわいい。
 先ほどは年を聞いてごまかされたので、今度は何であんな店にきたのか訊ねた。すると、知り合いに教えてもらった、と言う。それでも徳二郎のような男には不釣り合いだとマリアが言うと、「何か違う……今まで行ったことのない所へ行きたかった」と言った。他にもいろいろ聞き出そうとしたが、徳二郎は自分のことはほとんど語らず、マリアのことを聞きたがった。
「“マリア”ってどう書くの?」
「ただの“マリア”よ。立花マリア。カタカナで“マリア”」
「じゃあ、本物のマリア様だね」
 徳二郎が思いもよらないことを言ったので、マリアはプッと吹き出してしまった。からかっているのか本気で言っているのか。真顔で言っている所を見ると、どうやら本気らしい。
「母さんが皮肉で付けたのよ。売春婦の子がマリアなんてお笑いだってね。そういう人」
「マリアって名前、 素敵だよ」
「ありがとう。徳二郎が言うと本当にそう思えてくるから不思議」
 そう、徳二郎の言葉は自分には魔法のような力を持っている。
 食事が済んでからもその日は1日中ベッドで過ごした。その間、徳二郎はマリアの生い立ちや過去を聞いてくる。マリアはその全てを徳二郎に正直に話した。心まで裸にされ、徳二郎に受け入れてもらいたかったからだ。しかし、徳二郎は自分の事は頑なに何も話さなかった。マリアはそれが寂しかった。