「へ、編集長」

「おはよう、呉羽さん。で、何を諦めるって?」

「や、えーと」


柔らかく笑う編集長に、私は少し引きつった笑みを返す。
だって、咄嗟すぎて言い訳が思い浮かばない。


「あー……そうだ! 一回くらい当ててみたくて何度か懸賞応募してたんですけど、当たらないからもう諦めちゃおうかなって」

「はは、何それ」

クスクス、と笑う編集長。
人の気も知らないで、と考えると溜息が零れる。

と、編集長が不思議そうに私を見遣った。

「ん? 元気ない?」

誰のせいだと思ってるんですか。

「……元気いっぱいですよ、そりゃあもう」

本音を隠して言葉を返す。

「ふーん……? あ、そうだ。呉羽さん、今日の夜なんだけど、空いて……」

その時、向こうから梓が歩いてくるのが見えた。

「今日は無理です! あず……七瀬さんにお願いしてください!」

さっきの話を聞いた直後だったせいか、私はとっさに編集長の元から離れてしまった。