真治さんはなんとなく前より近づいてきていた。
き、気のせい?





―――――いや、違う。





「燕ちゃん・・・一つ聞きたいんだけどさぁ」

「な、なんでしょう?」

少しずつは後ずさりながらも、私は真治さんから逃げようとした。
すると真治さんは私の左の方の耳元で囁いた。



「彼氏とかって・・・いる?」



・・・熱い。

耳元だけが、いや、顔も熱い。
全部、熱い。

「ぃ、いません・・・よ」

真治さんの息がかかっただけで、私の鼓動は早くなった。

でも私・・・





「もう、行っていいですか?」





この人―――――好きじゃない。

私は真治さんを軽く押した。
少しだけ触れた胸板は、すごく、真治さんが男の人だと改めて実感させた。

早く戻らなきゃ。





グイッ





「(え)」

急に手を掴まれた。

動けない。

私は後ろを振り向いた。

「真治さん?」

そこにいたのは、さっきまでの真治さんではなく。
・・・怖いオーラを放って、真剣な眼差しで私を突き刺す真治さん。

別人の様だ。

「し、真治さん?」

私はもう一度、名前を呼んでみた。
答えはない。

ただ、私を見つめ続けている。

「(本当に真治さん・・・?)」

しかも名前を呼んだ後からというもの、私を掴む力はどんどん強くなっていく。
それは痛みをも感じさせるほどだった。

「い、痛いッ」

だ、誰っ!?