「高杉、久坂出掛ける時間だ」



いきなり襖が開いて、
もう一人の見慣れない人が顔を見せる。



「栄太郎、
 今、行きます」



義助さんは立ち上がると
ゆっくりと部屋を出て行った。





晋作さんは座ったまま、
力強く抱きしめてくれた。




「君のことは、
 俺がみる。

 今はゆっくり休んだらいい。

 何もかも忘れて、この長州の海を眺めて
 過ごせ。

 名前がないと不便だな。

 何時までも君ばかりじゃ味気ない」





そう言って、
その人は……私の持ち物とされた
何かを手にとってペラペラとめくった。




「……舞……。

 舞でどうだ?。

 君は名前も記憶も忘れて
 突然、俺のもとに舞い込んできた」

「……舞?……」

「あぁ。
 
 舞、今日からの君の名だ」






……舞……。






初めて紡がれる名前のはずなのに、
その名を紡がれるたびに心の中が少し暖かくなった。




「……舞……」

「あぁ。

 舞だ……。
 少し俺は出掛ける。

 この屋敷は自由に使えばいい」



晋作さんはそう告げると、
部屋を出て行ってどこかへ消えて行った。






一人残された部屋。




布団の中から立ち上がって
裸足のまま、畳の上を歩いていく。



義助さんと晋作さんが出て行った
襖とは逆の障子をゆっくりと開け放つ。