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「ゆりちゃんゆりちゃん」
昼休憩中、何気なく廊下を歩いていると、ふと聞き慣れた声が耳に入った。
「??」
振り返ってみるけど、それらしき人はいない。
「こっちだよ」
「わっ」
また声が聞こえたかと思ったら、突然、空き教室の方へと腕を引かれた。
「奏多!」
「へへ、来ちゃった」
わたしの手を掴んで笑う奏多。
その笑顔に、急に胸が高鳴りだした。
「もう早くゆりちゃんに会いたくてさ、午前の授業に全く集中できなかったよ」
「…集中してないのはいつものことでしょ。わたし関係ないと思う」
「あはは、バレた?」
明るくケラケラと、奏多は笑う。
反対に、わたしはいつでも冷めた目。
もちろん、心まで冷めているわけじゃないんだけど…
つい、冷静沈着な態度をとってしまう。
素直になりたいけど、…こればっかりは自分でもどうすればいいのか分からない。
それでも奏多は、そんなわたしでもいいと言ってくれる。
…それってすごく幸せなことなんだなって、口には出せないけど心から思う。