凛太朗の情報によると


小野寺くんは毎日、四時間目の授業が終わると売店に行くらしい。



だからそのときがチャンスだというのだ。



あいにく私は、ハンカチを持ち歩いているような女子ではなかったから


伊織に借りることになって。



そんな自分が少し恥ずかしいよね。


「小野寺くんが戻ってきたときに、
葵がすれ違ってよ

そのときにハンカチを落とす、オッケー?」


「…ん~…」



そうは言っても、私は全然乗り気じゃないんですけど



「もー、絶対うまくいくって」



じゃあなんでそんなににやにやしてんのよ。



「はいはい、わかりましたよ」



「それで拾ってもらったら、めっちゃ笑顔で

小野寺くんありがとうっ


ていうこと。」



「はいはーい」



「聞いてんの?

ってほら、来たよ、王子様!」


てきとうに返事をしていたから


心の準備なんてものは
一切できていなかった。


「えっどうしよう、えっ今!?」



「ほら、はやく!!」


「わ、わかった!!」



伊織に背中を押されて、小野寺くんの少し前の位置でハンカチを落とす。


あまりにも不自然すぎる落とし方だったろうと落としてから気がついたけれど


そんなことは今さらすぎる。



「あの、落としましたよ」



そして、本当に背中にそう声をかけられてしまった。



まさか、拾ってもらえるなんて。



「えっ、小野寺くんありがとうっ!!」