「…陸斗、大丈夫だよ。」
「っ…。」

 自分よりも、そして旭よりも背丈の大きい海理を怖がるのはある意味仕方のないことだとも言える。理屈じゃない。多分反射で、怖いのだ。

「海理、紹介するね。桜木陸斗。ご飯食べれるって言うから準備お願いね。陸斗、彼はね雪城海理。陸斗よりもちょっと前にここに来たんだよ。陸斗のお兄さん的ポジションかな!」

『よろしく。』

 海理は口を動かすけれど、顔を上げない陸斗にそれは見えない。それに気付いた海理はメモにペンを走らせる。

「…え?」

 視界の下がった陸斗の眼前にすっとメモを差し出す。

『僕は声が出ないんだ。だから話す時はこうしないと話せない。厄介な人間だけれど、仲良くしてくれると嬉しいな。よろしくね。』

 パッと顔を上げて、どこか複雑そうな表情を浮かべた陸斗が旭を見る。

「ん?言いたいことがあるなら言っていいんだよ?」
「…読め…ない。」
「え?」
「この漢字、読めない。」
「え、どれ?」

 陸斗が指をさしたのは『厄介』という文字。

「あーそっか。まだ習ってないかもね。これはね『やっかい』って読むの。意味はちょっと面倒とか大変とかそういう感じだと思う。」
「…声、出ないの?」

 今度の質問は海理に向かっていた。