「…理由、必要…かなぁ?」

「え…?」


あたしは支えた腕をゆっくりと引っ張った。
力なきその細身の身体は、驚くほど簡単にあたしの胸におりてくる。
そのまま床にへたり込む。彼の身体を抱き留めたまま。


「…な…。」


言葉を塞ぐように、背中にそっと手をあてる。
その身体をなるべく優しく、壊さないように抱きしめる。


「心配だから心配だよ。
そんな目をして、こんな弱った身体でそれでも親を呼んでって言わない君を心配しない大人は大人じゃない。
でも、それは君を責めてるわけじゃないよ。
だから君が〝家〟に帰りたくないなら帰らなくていい…って言ってあげたい。
実際はどうなるか分かんないけど…。」


彼はただ黙ってあたしに抱きしめられている。
抱きしめ返すでもなく、突き飛ばすわけでもなく。
…少し、混乱しているような形で。


不意にゆっくりと、手が動く。
あたしの服の裾が一瞬、とても弱い力で引っ張られた。


「ん?」

「帰った方が…。」

「いいかどうかは、自分で決めればいいよ。
あたしは君の意見を一番尊重したい。」