『無理に食べてもらうほどの味でもないし、嫌なものはどれだけ人から何を言われても嫌なものですから。』


無理強いは良くないと旭に言ったのは僕だ。


だから空さんに僕の料理を食べてもらうことを強制できない。
そう旭に言ったら、旭は『絶対あたしのより雪城さんのご飯の方が美味しいのになぁー』とか言いながら、一人分だけ作っていた。
そういうところが旭らしいし、旭の良さの一つだと思う。


ふと空さんを見ると、少しだけ驚いたように目を丸くして僕を見つめていた。
その表情の意味するところがよく分からなくて何も返せずにいると、僕にゆっくりと背中を向けて空さんが言葉を口にした。


「…男はやっぱり嫌いだけど、味は嫌いじゃない。
だから明日から旭にはご飯作らなくていいって伝えて頂戴。」

『え…。』


声が出ない喉を押さえる。
それって…


「…あなたの料理を食べるわ。
あなた、よく見たら男っぽくないしね。少し平気かもしれない。」


一瞬だけ僕の方を振り返って、少しだけバツの悪そうな表情を浮かべてそう言う空さん。
…これは、少し近付けたと思っていいのだろうか?


声が出れば引き留めることができたんだろうけど、空さんはそのままリビングの方へと向かってしまった。


廊下に取り残された僕は本来の目的を思い出し、自室に入った。


少ししわくちゃなシーツを伸ばし、枕を整え、掛け布団を半分に折って寝かせられるようにセットする。
そしてドアを開けっ放しにして、自室を出た。