【海理side】


お風呂からあがって気になったから旭の部屋に行ってみると、規則正しい寝息が一つに、荒い呼吸が一つ。
寝顔のあどけなさはいい勝負という感じだった。


旭は男の子の顔のすぐそばで両腕を軽く組み、その上に頭を乗せてすやすやと眠っている。
男の子を一人抱えてずぶ濡れで帰って来たんだ。疲れていて当然だと思う。


…こんなところで寝ていちゃダメだよ、旭。


ここで生活し始めて、『声が出たら』と思うことが増えた。
今だってこう言えたら旭を自然に起こしてあげることができる。
でも僕は声が出ない。それは変わらない事実。


僕は一度旭の部屋を出て、自分の部屋に戻ろうとした。





「あ…。」


…旭の妹の空さんとばったり出くわす。
空さんの表情が歪む。
男が苦手だと旭から説明を受けてはいるものの、実際に嫌な顔をされると良い気はしないし、相手にも不快な思いをさせてしまっていることが直に伝わってくるのでどうしていいか分からない。


とりあえず、軽く会釈をする。
顔を上げると怪訝そうな表情のままの空さんの瞳にぶつかった。


ここで立ち止まるのも良くないと思い、部屋へと足を進める。


「ねぇ、お昼にテーブルに置いてたポテトサラダ、作ったのはあなた?」


話掛けられるとは思っていなかったため驚いたものの、ゆっくりと振り返って肯定の意を示すべく頷いた。