海理の口が、微かに動いた。
…でも少し早いのと長いので読み取れない。


「か…海理…?あの分かんな…。」

『ごめんね。』


そうは言うものの言い直してはくれない。
結局何を言っていたのかよく分からないまま、無言の時が過ぎる。


「あ、海理お風呂まだでしょ?お風呂入って来て大丈夫だよ。
あたしちゃんと見てるから。」

『そうするね。』


一度だけくしゃっと頭を撫で、その温かい手が離れていった。
誰もいなくなった部屋に、少し乱れたままの呼吸だけが残る。





「ねぇ…不思議だよね。
海理の手ってあたしに色んな気持ちを伝えてくれるんだよ。
厳密に言えば声は聞こえてこない…のに。」





〝音〟としての声はしない。
でも、〝声〟は聞こえる、気がする。





「えへへー褒められちゃった!
いい年しても嬉しいもんだよね、褒められるの。
なぁーんて、こういうところが子どもっぽいのかな?」


寝顔はとても子どもっぽくて、思わずそんな言葉が零れた。
傷さえなければ、本当に普通の子どもだ。
…中学生くらいって感じの。


あたしは柔らかくて少し長い髪を軽く撫でた。
幼い表情がなんだか可愛くて、思わず笑みが零れた。