「…早く、この子も…それにもう一人の彼の名前も分かるといいなぁ…。」


ぽつりと零れた本音。
焦ってはいけないことだって分かってるし、焦る理由だってない。
でも、名前は特別だから。大切だから。ちゃんと呼んでほしいものだと思うから。


「名前呼ばれるのって、嬉しい…よね?」


ちょっと不安になって、雪城さん…もとい海理に訊ねる。
するとポンポンと頭を軽く撫でながら微笑んで、頷いてくれる。


『嬉しいよ。とてもね。』


海理がゆっくりと、あたしが分かるスピードでそう言葉を紡ぐ。


「あたしも…嬉しい、から。
海理に名前を呼ばれるのも、空に名前を呼ばれるのも。
だから、そういう気持ちを分けてあげたい。
…だ、だからっ…早く元気な顔が見たい…なって。」


今度は長くなるらしく、ペンが動いた。


『旭は本当に良い子だね。』

「あ、子ども扱い?」


ふるふると首を横に振る。唇の代わりに動いたのはまたしてもペン。


『違うよ。大切なものを大切だってちゃんと言える旭がいいねって話だよ。』

「大事なことはちゃんと言葉にするよ!じゃないと伝わらないじゃない。」


海理は微笑んだまま頷いた。
あたしの頭に手を置いたままで。