あたしは眠る男の子の額に手を伸ばした。
そしてそのまま、ゆっくり頭を撫でる。


「ゆっくり寝てね。…大丈夫、だから。」


その傷がどうしてできたのか、あたしは知らない。
どうしてあんな時間に体調が悪いのに一人であんなところを彷徨わなくてはならなかったのかも、あたしは知らない。


…君のことなんて、あたしは全然知らない。
だけど、だからこそ…


「安心してここにいていいよ。
ここには君を傷付けるものは…ないから。」


不安そうに、どこかで何かに怯えているような目であたしを見た、君を忘れられそうにないよ。
苦しそうに紡いだ言葉と一緒に、鮮明に覚えている。


「名前…なんて言うのかなぁ。
元気になったら教えてよね?ちゃんと下の名前で呼んであげるから。」


ツン、と服の袖が引かれた。


「ん…?」

『僕も下の名前で呼んでほしいな。』

「え…?」

『名前教えたし、ね?』

「えっとまぁ…そうだけど…。」

『僕は旭って呼んでるし。』

「そ、それも確かにそうだけど…。
呼び捨てで、ってこと?」


優しく微笑んだまま頷く。


「じゃっ…じゃあ、呼ばせていただきます!」

『うん。呼んで。』

「海理…。」

『…ありがとう、旭。』