「帰る場所…っ…ないっ…。」

「ど…どういうこと…?」

「っ…でも…かえら…ないとっ…。
お、下ろしてっ…。」

「だ、ダメだよ!熱あるんだよ?こんなにびしょ濡れだし!」


男の子が腕の中で暴れる。
一応力はある方だけど、男の子に抵抗されたらさすがのあたしでも耐えきれない。


どんっと一度強く押されて、彼はそのまま地面に落ちた。
電信柱に手をつきながら、ゆっくりとその身体を起こす。


「無理だよっ!一人で帰るなんて!」

「…ついてこないでっ…。」

「無理!心配だもん!」

「え…。」


彼の動きが止まった。
少しだけ、あたしの方を振り返った。


「心配だよ!すっごい熱あるし、怪我いっぱいしてるし。だからっ…。」


あたしがそこまで言って、彼の身体がふらつき、そのまま倒れそうになる。


「あっ…っと…セーフ…。」


地面にぶつかる寸でのところでギリギリ、その身体をキャッチした。


「…限界、でしょ?だから帰ろう。とりあえず、あたしの家に。」


眠る男の子にそう言って、あたしは再びその身体を持ち上げた。