汗で顔に張り付いた髪を手で梳く。柔らかな金髪……。

-ヴーン、ヴーン…-

部屋の隅に置いてある(というか投げてある)太陽の携帯が鳴っている。バイブになっているからか太陽は気付かない。放っておくか迷ったけど桜は携帯を手に取る。

-ピッ……-

「あ太陽?昨日どーしたのよ急に走って行っちゃって……」
「もしもし?」


女の人の声。相手は電話に出たのが太陽じゃないと分かると一瞬沈黙する。


「誰?これ太陽の携帯だよね?」
「あのっ、私太陽の幼馴染みで…太陽は今ちょっと体調悪くて休んでるので用件、伝えますけど…」
「………ふ~ん。じゃあなたに頼もっかな。昨日太陽課題忘れていったのよ。急ぎで必要なはずだから取りに来て欲しいのよね」

今の状態の太陽を外に出す訳にはいかない。でも必要な物なら取りに行かなきゃ。桜は責任を感じていた。


「分かりました。どこに?」
「二時間後にS駅裏の『R』ってお店に♪じゃよろしく」


返事をする間もなく切れてしまった。着信履歴を見るとナオと登録されていた。太陽を見るとまだ眠っている。

-しょうがないよね…-


そっと部屋から出ると、廊下で元気とばったり。

「桜なんで太陽の部屋にいたんだ?いつもあれだけ嫌がってるのに」
「おはよ。元兄ィ昨日……遅かったね」
「ごめん。言い訳はしない」
「あの人と一緒にいたんでしょ?」
「えっ」
「夜、太陽と話してたじゃん。あんまよく聞こえなかったけど、香水の匂いするって…」
「あれは違……」
「いいよ。隠さなくても。桜今からちょっとで出かけるから」
「どこへ…」
「元気の課題取りに。桜のせいで忘れたから」
「俺も行くよ」
「いい。元兄ィはあの人のとこにでも行ったらいいよ」


つい言葉が刺々しくなる。八つ当たりしてるのは分かってる。でも止められなかった。早足で元気の脇を通り過ぎるとそのまま玄関から飛び出した。



-ここ……だよね?-

指定された店の前で足が止まる。スプレーで壁が見えなくなるくらい落書きされている。窓がなく中が見えない。入口付近にはいかつい男の人達が数人たむろしている。
昼間なのに明らかに夜の雰囲気……。