家までの道のり、私達は一言も会話を交わすことなく歩き続けていた。

転ばないように柚木君の手が私の腕を支えてくれてるけど、お互いにギクシャクしていて余計に歩きにくい。

たまに柚木君から小さなため息も聞こえるから、苛立ってるのかもと思うと、声をかけることも、顔を見上げることも出来なくて。

俯きながら早く家に着いて、と願うしかない。

「……はぁ」

何度目だろう。

また聞こえた柚木君のため息。

苦しくなった私はついに声をかけた。

「ゆ……ずき君?」

「あ、え?」

突然話しかけたからか、柚木君はビックリして私を見下ろした。

「あの……もう、家すぐだし、この辺でいいよ。マネジャーさんも待ってると思うし」

「あ……あぁ……や、でも。とりあえず家まで送るよ」

「でも、本当大丈夫だし。もう、本当に……」

ずっと熱すぎてどうにもならなかった柚木君につかまれた腕を、私はぐいっと振りほどいた。

「ごめ……迷惑だった?」

柚木君が聞く。

違う。迷惑なんかじゃなくて。

そうじゃなくて。

本当はこうして送ってもらえるのはすごく嬉しくて。

でも……楽しそうじゃない柚木君をこれ以上引き止めるわけにいかないんだもん。

これ以上、嫌われたくない。

けど、嫌われたくないからって言うと、なんだか告白のように聞こえるかもしれないと思うと、今の気持ちをうまく言葉にすることが出来ない。

何も言えない私に、柚木君は

「ごめん」

少しの沈黙の後、1言だけ残して、来た道を走って戻って行ってしまった。