私はもう大丈夫。そう伝えてナカちゃんを部活に向かわせてあげなきゃ。

でも、そんな事も言えない私は本当に情けない。

無理やり笑顔を作ってみたら

「そんな顔されたら私が泣きたくなるよ」

って、ナカちゃんまで涙ぐんでしまった。

結局ナカちゃんの優しさに甘えて気持ちが落ち着くまで音楽室にいた私達。

1時間ほどしてやっと立ち上がり、渋るナカちゃんを部活に向かわせる為に音楽室を出た。

「ひとりで帰れる?」

ナカちゃんは心配そうに私の顔を覗き込む。

これ以上心配かけてばかりじゃダメだ。

「うん」

頷くと、私はナカちゃんの背中を押した。

「部活、行ってらっしゃい」

でも、やっぱり後ろ髪引かれるように振り返るナカちゃんは、

「やっぱり、これ楓花が持ってた方がいいと思う。柚木だって、返してこなかったんでしょ?それなら、持ってていいってことだよ」

握っていた校章を私に返してきた。

「どうしても返してほしかったら、柚木から言うはずだよ。楓花も、どうしても返したいなら、自分で柚木のとこに持っていきな」

「……」

どうしよう。

持ってて、いいんだろうか。

でも、本当は、持っていたい。私にとってお守りみたいな柚木君の校章。

「じゃね。何かあったらすぐ電話しなよ?夜また電話するからね」

まるでお母さんみたい。

「ありがとう」

わたしはまた校章を握りしめて、ナカちゃんに手を振った。