「うちの母親に、沙亜矢のお母さんのフリをして貰うからね…」



「……ごめんなさい……」



私が何も考えずに、ただ逃げる事しかしなかったせいで。

大切な命を、亡くしてしまうんだ。

でも、パパが良くしてくれると信じる。

…ごめんね、赤ちゃん……。



「謝らないの!また、会えるんだから」



「うん……っ」



また我が子に会えた時には、強く抱き締めてあげよう。

目一杯、可愛がってあげよう。

それが、私に唯一出来る事。

…赤ちゃん。

“ごめんね”じゃなくて、またねと言うよ。

また、私をママに選んでね。

夜、公園で時間を潰して家に帰った。

お兄ちゃんは残業らしく、晩御飯を食べたらすぐに部屋に籠った。

全身鏡の前、おもむろにパーカーを脱いだ。

キャミソールの上からでもわかる、消えかけの赤い斑点。

改めてこうして見ると、お兄ちゃんから貰ったネックレスは似合わないだろう。

キスマークが消えても、過去は消せない。



「沙亜矢?急な呼び出し掛かったから、留守番よろしくね!」



「え……、」



「行って来ます!」



私は慌てて出掛ける母親の声を聞きながら、パーカーを着直した。

…早く出ないと。