「…お幾らですか」


その声が、前聞いた冷たいものではなくどこかいたわるような優しいものだった事に喉元を締め付けられた。

辛い。

私は首を横に振る。


「…さしあげ…ます」


いつか言われたように、そう返した。


「さしあげ…ます…から…」


もう、許してくれませんか。

もう、解放してくれませんか。

貴方の事好きでいるの、やめるから。

どうか、もう。

ぼろぼろ、床に落ちていく涙だけを目で追いながら私はそう祈った。


その時、



「…すみませんでした」



胸を詰めた様な声で彼がそう言った。

なぜ謝られるのかわからずにいると


「本当にすみませんでした」


と繰り返される。


「俺の勘違いだったんです」


その一言に、私の行為の誤解が解けていた事を知った。

わかって…くれたんだ。

それは安堵を呼んだ。

でも、だから何だというのだろう。

彼は悪くない。

彼があの店でどんなに楽しそうに働いているか私は知っていた。

執拗な兄の勧誘も。

そんな中あんなメッセージを持って彼にブーケを作らせた私は考えと説明が足りなかった。

そして、彼に意地の悪い台詞を言わせてしまう程に傷つけた。

それは私が愚かだからだ。

なのに彼はこうしてブーケという理由をつけてここまで来て謝罪をしてくれた。

優しい人だ。

とても。


だから、もういい。

もう忘れてほしい。

何もかもすべて。

私を含めて全部。

何も言えず首を振りながらブーケを差し出すけれど、彼は受け取らない。

やっぱり、私が作ったブーケでは力不足なんだ。

わかってはいたけれど、惨めだった。