じわ…と涙が浮かび、必死に瞬きで消す。


「どんな…花を入れ…ますか」


か細く覇気のない弱い声が出た。

みっともない。


「…赤い、アネモネを」


私は何も考えないようにしてアネモネの所まで行く。

綺麗で優しくてどこか甘やかしてくれるような顔の花を選び、一本、また一本と抜く。

沈黙が重かった。

彼がどんな目で私を見ているのか怖くて怖くて仕方なかった。



『俺、色仕掛け嫌いなんです』



今一番思い出してはいけないシーンが胸に蘇った。

アネモネを持つ手が震える。


だめ。

負けてはダメ、だ。

別の、事、考えなきゃ。

なのに



『俺、色仕掛け嫌いなんです』



視界が一気に滲み、だめ、と思う私の意思を無視して、涙がぼろぼろこぼれた。



「……っ!!」



彼が息をつめたのがわかった。


見ないで欲しかった。

見られたくなかった。

これも色仕掛けだと思われるのが、消えてしまいたいくらい怖かった。

どうしても止まらない涙をそのままになんとかブーケを作り上げる。

顔を見られないように俯きながら、なんとか、ブーケを差し出す。