彼を見て再認識した。

私は彼が好きだ。

だからこんなに彼の言葉に傷を負ったのだ。

震える指先を叱咤しながら握りしめ、私は歯を食いしばる。

ずきずきと痛む胸をゆっくりゆっくり宥めながら仕事に戻ろうとした。


だけど


店の前に彼がいた。

向こうから全力で走ってきたのだろう。

息を切らして必死な顔で立っている。


また、傷つけられる。


それが怖くて仕方ない。


私はブーケを作らせておいて代金も払わずにブーケも置いて逃げた。

それが彼には『勧誘』の図星をさされた者の行動に見えた筈だ。

私は彼にとって卑怯な策略に花すら巻き込んだ最低女だ。

状況は最低だった。


「…ブーケを」


声をかけられビクッとする。

私の怯えを察知して彼は一瞬言葉を止めた。

優しい人だからきっと、こんな惨めな私を哀れんだのだ。

それがまた、私を抉る。


「…作ってもらえませんか」


…ブーケ?


以前と逆の立場になっている。

これはどういう意味なんだろう。

わからない。

わからないけど。

私は今働いていて、この人はお客様なのだから、ちゃんと、しなければ。



「…ずっと好きだった人に渡したいんです」



胸が、裂かれた様な気がした。


この人が前にいなければ私はきっとその痛みに座りこんでいただろう。


私、この人の事、こんなに怖いのに。

今、こんなに辛いのに。


この人の事、まだ、こんなに好きだったんだ。


……心が血を流している。


私、今、はっきりと、



失恋したんだ。