「俺はこの店が好きですから、そちらに勧誘はされません。いくら可愛い女性がこうして足を運んでくれても。そう、お兄さんにお伝え下さい」


そして、突き放した様に、にっこりした。




「俺、色仕掛け嫌いなんです」




それは、兄ではなく私に吐かれた言葉だった。


兄はしつこいくらいこの人を勧誘していた。

そんな兄に彼は辟易していた筈だ。

そして私が兄の使いだといってこの店に来た。


『さっさとおちろ』


こんなメッセージを持って。


彼は私も勧誘に来たのだと思ったに違いない。

だから冷たく笑ったのだ。

ブーケを頼むという回りくどいやり方で私が接近してきたと思ったのだ。



羞恥に、全身が赤くなった。



あの優しい笑顔は嘘だった。

あの優しい声は嘘だった。

優しく優しく振る舞いながら彼は、心の中で私を軽蔑していたのだ。

なのに私は愚かにも舞い上がり、満面に笑って、かすみ草の話なんかして。

仲良くなれたら、なんて馬鹿な希望を見ていたのか。


言い知れぬものが喉をつめた。

涙がこぼれる。

うまく声が出せず彼の顔が見れない。

耳なりがして足元がぐらついた。

どうしようもなくて、ただ深く頭を下げ、ブーケも受け取らず私は逃げた。

力の入らない膝をなんとか動かしながらただ、彼の目の前から消えたくて、



必死で


逃げた。