「待ちなさい!」「いっ…!」
腕を掴まれ、振り返る。
泣き目になったお母様が立っていた。
「私はアンタを誇りに思っておったよ。可愛くて可愛くて…「あれの!あれのどこが!?」
泣き崩れる。ソレと同時にしゃがむお母様。
「愛情の示し方を勉強するコトね…」「待っとくれよ、さ…咲!」
雪の中、ひたすら私の名を呼ぶお母様の声。耳を塞ぐ。戻らない、戻らない!
何度も叫んだ。
私はドブネズミなんかじゃない。
ひたすら歩き、たどり着いたのは河原。
河原の隅で、泣いていた。
腹の底から、幸せになりたいという叫びが響く。
「私は…」涙をぬぐいながら、夕日を見つめる。
そんな時だった。
「ったく…。俺の特等席盗んだのはアンタか。」
聞き覚えのある声に心臓か高鳴る。
「ひじ…か…、土方…さん…?」「なに泣いて…」
安心感が芽生える。思わず彼に抱きつきたくなった。
私の肩をポンポンと叩き、隣に座って話を聞いてくれた。
「なるほど…。仕事が必要…か…」「はい。」
頷く。それに反応する土方さん。そして、口を開いた。
「アンタは死に物狂いで脱出したんだろ?」「はい…。」「なんならいっそ、芸妓にもなりゃ~いーじゃねぇか。」「え?」土方さんの言葉に戸惑う。
「食費や、寝所を確保でき、仕事もできる。いっそ芸妓はどぉーだ。」
「いや!芸妓だけには!」「んじゃ、戻れ。」「え?ソレは…」
辛く、苦しい日々からの脱出が簡単だとは言わない。けれど…。
「分かりました、芸妓、成ります。」「はぁ?」「何がはぁ?ですか。言い出しっぺが。」「あぁ…。すまんな。」私から目を逸らす。
「そ~言えば。なんで初対面の私に名前なんか?」
ずっと聞きたかったコト。ごほん!と、喉を鳴らした土方さん。
「いや…。別に。」それだけだった。