いつからか父と母、私、妹の間には壁は出来ていった。
見えない壁ならまだ良かったのかもしれない。
気付かなかったのかもしれない。
壁は、私達の前に目に見えた気がした。
見る見るお互いを見えなくした。
そして、私は私自身を見えなくした。
 
 高校を出てから、専門学校へ進学した。学費は母が昔から貯めていてくれたおかげで、行きたいところへどこでも行けるくらいだった。そんな中、私の選んだ学校は、医療系の学校だった。毎日毎日、必死で勉強した。でも、父は相変わらず転職しては辞める繰り返し。どこかで父を認めなくなった。そして、酒に浸る姿は当然の姿となっていった。

大好きなお母さんを苦しめる、
大嫌いなお父さん。
大好きな妹に父親らしく出来ない、
大嫌いなお父さん。

 次に働いた先では、毎日仕事に出かけたが、給料をもらって帰って来なかった。給料も出ない会社に、こんなプライドの高い父が通うわけがないと思うようになった。しかし、父は
「大きな企画があるんだけど、なかなか上手く行かなくて…。」
そういって給料を入れない日々が続いた。時々、酒臭かった。そして大口を開けて、母の作った温かいご飯を食べた。壁はどんどん高くなるが、母は父を信じていた。時々バカじゃないかと思った。こんな人間を信じたって意味がない。なのにどうして?これが夫婦なの?これが愛なの?

私にはわからない。

「今日早く帰ってこられる?」
母からのメールだった。
「大丈夫だよ。帰れる。」
「ごめんね、出来たらで良いから。」
何かあったんだろうか…。思い当たることを頭の中で片っ端から探した。

…お父さん…?…死んだ…?

前の晩、父からの連絡はなく、朝も部屋の中は空っぽだった。

お父さん…死んだ…?

頭の中はそればかりだった。そして、身震いがして、涙が出た。
「どうして…大嫌いなお父さんなのに。」
悔しかった。父親らしいことなんて、何年もしてもらっていない。そんな父親を、まだ死んだともわからないのに、私は身震いをして、涙まで流して…。