「ナナ、何飲む?」
「カシスオレンジ!」
「じゃあ私はビール。」
「ヒロ、ビール飲めるようになったんだ!私いまだに飲めないんだよね。」
「いつもカシスオレンジ飲んでいるよね。子供だな。」
「うるさいわ。でもほんとさ、「とりあえず生!」って言いたいんだよねー。」
カフェめぐりをしていると言ったナナは、映二さんの店が気に入ったらしく、私がバイトを始めると何度も一人で訪れるようになった。いつものように分厚い教科書を持って現わて、いつも同じ席に座る。結構美人でさっぱりした性格のナナは、うちのアルバイトの人とも話したり、ちょっとした噂の人になった。でも当の本人は、まったくそんなの感じていない様子だ。
「そういえばこの間、映二さんとドライブ行ったんだって?」
「そうそう。大雨の中、パン屋行ったんだよね。でもそのあとすごく晴れてさ。大きな虹も見たよ。」
映二さんの話しは、お兄ちゃんを通じてもよく聞くようになった。
「映二さんが、ナナちゃんつてなんか不思議ちゃんだよねーって言っていたらしいよ。」
「そうかね。映二さんも不思議さんだと思うけどね、カメラマンだって言うし。」
「そうなんだよね、私も初めて聞いた時びっくりしたよ。でもカメラ姿似合うよね。」
共通の知り合いが、こんな思わぬ形で増えて驚く。
「これ、この間撮った写真だって。」
私はお兄ちゃんから預かっていた写真を渡した。大きな虹の写真。
「さすがカメラマンだねー、綺麗。」
「今度一緒にご飯食べにでも行きましょうだって。」
「ほんと?ぜひって伝えておいて。」
ナナは映二さんに惹かれていると思っていた。でも、なんとなく突っ込みすぎないところもあった。それはナナの両親の姿を見ているからなんだろうかと勝手に思っていた。ほんとはどうなんだろう。
「ねぇ、ナナさ。」
「ん?」
「映二さんとどうなの?」
「どうって?」
いざとなると、少しためらった。
「だから…好きとか、気になるとか。」
「どうなんだろうね。」
ナナはそれだけ言って、一口飲んだ。
「正直さ、初めて会ったとき『あっ』て思った。言葉じゃ上手く言えないけど。」
「運命感じたってやつ?」
「んー…否定はしない。けど、肯定もしないかな。」
恥ずかしそうに笑った姿は、いつもとは明らかに違う顔だ。
「いいじゃん、好きになれば。」
「どうかね。」
一口飲んで、また今度この話しはしようってことにした。