飲食店で働いているカズヤからこの店は始まった。カズヤだけでは店長としての人手は足りないのでサブとして他の仲間も店長業務を手伝う。
「意外と店やるって大変なんだな。あいつ結構無理していたんだろうなぁ…。」
カズヤはビールを一気に飲み干した。
「カズヤでも思うって、俺に出来るかね。」
「お前には厳しいかもなー。」
「まじか!?」
仲間はいつも通り大笑いした。
俺は今でも、どうしてもトモヒロがいないという事実を認められずにいた。いや、認められないというよりは…。
死ぬってなんだ?ただ目の前から消えることなのか?
遠くに引っ越して、もう会えなくなるのとは訳が違う。
でも、そんな感覚なのか?
いや、そんな簡単なことではないことはわかっている。
だけど、俺にはわからなかった。
トモヒロ…お前、どこにいるんだ?

 俺が店長の番になって一番始めに、カプチーノの上のミルクで絵を描きたいと思った。
「山下さん、カプチーノの上に絵描ける?」
「丸くらいなら。」
「ちょっと教えて!」
バイトの山下さんは、大人しいけどおもしろい。隠れキャラみたいな人。
「意外と簡単!」
「映二さん、センスあるんじゃないですか?上手だー。」
俺は得意げになって、いろいろなものが描けるようにもなった。だから、お客さんがカプチーノを頼む度にいろんな絵を作って出しまくった。
「こうやって喜ばれるのも、悪くないな。」
 何年経ってもこの場所は変わらない。バニラのアロマを焚いたこのホールも、今では本物のコーヒーのにおいが漂うようになった。あの頃来ていたお客さんは、今でもたまに顔を見せてくれる。常連さんは、俺達がローテーション店長だということを知っていて、時々俺達が間違っていると教えてくれる。

「昨日、友達が来たんですけどすごくここ気に入っていましたよ。」
「良い子じゃーん。」
「気に入ったからまた来るって。」
「じゃあ今度はサービスしなきゃね。」
この店は、間違いなく俺ら以外の多くの人で守られていた。それは、トモヒロがやってきた土台があったからだ。