はじめ、お客は当然友達が多かった。でも客が客を呼び、トモヒロの人柄と、店の雰囲気の良さに魅せられて店はいつもそれなりに席が埋まるようになった。
 店が忙しくなるのと同じように、俺達もそれぞれの仕事が忙しくなっていった。トモヒロの店とは言え、みんなで作ったようなもの。だから、たまには集まることもあるけど、どんどんみんな自分の道を歩きだしていたんだ。

 「トモヒロが死んだ。」
ケンジが俺に電話で言った。
信じられないが、突然あいつは俺らの前から姿を消した。
「なんで?」
「倒れたんだって。」
「なんで?」
「よくわかんないけど、おばさんの話ではここんとこ具合悪かったらしい。それで酒飲んで、倒れたらしい。」

 花に囲まれた、トモヒロの写真の前でみんな泣いていた…。でも俺は涙が出なかった。強いからじゃない。あいつがいなくなったことが信じられないから泣けなかった。

「あの店、俺らでやっていかね?」
仲間の一人、ユウスケからの提案だった。
「でもみんな仕事…どうする?」
「バイトの人もいるしさ、なんとか俺らでローテーションとかでつなげないかな。」
「おばさんに少し手伝ってもらってさ…。なんとかしたいな。」
トモヒロのおばさんは、俺達の提案を快く引き受けてくれた。それどころか、泣いて喜んでくれた。しばらくはアルバイトの人とおばさんが中心で店をつないで、俺達は手伝い程度。そのうち少しずつ主軸は俺達が代わるということを約束して、【café~Lily~】はなんとかバトンを落とさずにすんだ。