駅のそばに小さな売店があって、その裏におばさんの家はあった。
「はい、どうぞ。」
おばさんは最中と緑茶を出して、菜苗の前に座った。
「ありがとうございます。」
「ナナエさんっておっしゃるの?あなたのお名前。」
おばさんは、菜苗のバッグから下がったキーホルダーを指さした。
「そうです。菜の花の「菜」に苗木の「苗」でナナエです。」
「素敵なお名前ね。私は、チヨ。カタカナでね。」
チヨは微笑んだ。
「昔住んでいたって言ったかしら。今は違うの?」
「はい、今はここから少し離れたところに母と2人で住んでいます。」
「そう。今日はどこか行く予定だったの?今から行くのかしら?」
「…夢に見たんです。この町の風景を。だから、懐かしくなって来てみました。特に目的もないし、誰かに会う予定もないんです。だけど、【呼ばれている】っていう感じがしました。」

昔住んでいた町を夢に見たから来てみた。理由はただそれだけ。

「そうなの。何に呼ばれているのかしらね。もし、なにかいいものが見つかったら良かったら教えてちょうだい。」
「えぇ、ぜひ聞いてください。」
「じゃあ今日は、どこに泊まるかも決めていないの?」
ある程度のお金と、少しの着替えを持って出てきただけ、あとは何とか…。
「宛てがないわけではないんですけど、まだ連絡していなくて。」
「じゃあ、もしもその宛てがダメならうちに泊まりなさい。好きなだけ居たらいい。気が済むまでいなさい。ルーを昔、うちに届けてくれた心の優しいお嬢さんなのだもの。私にも少し恩返しさせて。」
そう言って、チヨは台所の方へ行った。