「ナナエちゃんは、先生の仕事天職だね。俺、なんか元気もらえるもん、すごいなぁ。」
まるで、菜苗の思っていることが栗林さんに移ったみたいだった。
「あ、ナナエちゃん。パン好き?これから買いに行くんだけど、ドライブがてら良かったら一緒にいかない?」

 車内に流れる音楽は雨の音で邪魔された。
「映二さんは、いつまであのお店の番なんですか?」
「次の仲間の仕事が一区切りつくまでだね。俺の本業は自由だから。」
「本業はなにしているんですかって…聞いても良いですか?」
「ダメ、恥ずかしいから。何だと思う?」
「えー…ノーヒントですか?」
「うん。」
「なんだろう…。んー…」
この人にはカフェ店員がぴったりだ…。
「しょうがない。ヒントはカシャだね。」
「カシャ?」
「そう。」
「カシャ…カシャ…カシャ…カメラ!」
「おぉ、正解!」
「カメラマンなんですか?」
「親父が写真屋やっていてね。まだ親父が現役でやっているから、今はまだ手伝っているみたいなものなんだけど。」
「かっこいいですねぇ。」
「いや、でも親父の手伝い程度にしか仕事してないってのもなんか納得いかないんだけどね。」
映二の話しはどんな話しも菜苗の気持ちにピタリと入っていった。
「あ、雨やんできたね。」
「本当ですね、少しあっちの方雲が切れてきている。」
「こんな日は…。パン屋の前に、ちょっと寄り道して良い?」
「いいですよ、お任せします。」
今来た道を少し戻って、そこからしばらく道なりに走る。
「この当たりきたことある?」
「全然わからないです。」
「そっか、じゃあ一歩間違うと誘拐だね。」
「うわ…映二さん、そんな考えあったんですか。なんか残念です。」
「ごめん、嘘だよ。」
ずっとずっと真っ直ぐ走っていたら、小さな川がある。その上に橋がかかっていたので、そこに車を停めた。
「降りて。」
さっきまで海の見えるカフェにいて、今は川にいるのか。一日でちょっとした旅をしたみたいだ。
「やっぱりな。」
映二は少し遠くを見て言った。視線の先には、大きな虹がかかっていた。
「わあー!」
今まで見た中で、一番大きな虹だったかもしれない。こんなに七色が濃く、きれいな虹も初めて見た。
「あ、写メ写メ!」
携帯電話を取り出して、画面に遠くの景色を映す。