「いらっしゃいませ。」
「ホットコーヒー一つお願いします。」
「かしこまりました。」
雨の日は、あの席からどんな景色が見えるんだろう。
あの店に行きたい気分だ、と思いながら車を走らせた。この大きな窓からは、海と道路が半分くらいずつ見える…少し荒れた海と、水を跳ね返す道路。ひとつの出来事で、いろんな姿が見えるんだ。
「ここ良いですか?」
「はい…あ、おはようございます。」
映二が、声をかけてきた。
「珍しいね、雨の日に。」
「なんとなく来たい気分になったので来てみました。」
「ありがとうございます。」
映二は笑って見せた。
「ここから雨の日は何が見えるのかなぁって。ここはなんだか、おもしろいですね。晴れの日も雨の日も、なんだか綺麗。」
止む気配なんてない窓の外の雨を眺めた。
「そうでしょ。ここ、元々は僕の仲間の地元でね。まさか自分がここで働くとは思わなかったけどね。」
映二は窓の外に視線を移した。
「いつからここで働いているんですか?」
「そうだなぁ…もう七年か。その仲間がある日突然ここを辞めちゃって。良い場所だから、他の仲間達と潰さないように続けてきて、今日に至る。なんていうのかな、ローテーション?今は僕の番、というところ。」
「ローテーションかぁ。じゃあ、その順番が終わったら他のお仕事に?」
「うん、本業の方にね。」
「へーぇ、おもしろいですね。お友達はきっと喜んでいますね。」
「だと良いんだけど。」
表情豊かな人だった。すごく、引き込まれるような人。
「今日はお仕事じゃないんですか?」
「今日はね、休み。夜、仕事が終わってから、さっきまで控え室で寝てしまってね。今、実はこれ、寝起きの一杯。」
自分の手元のコーヒーを指さした。
「そうなんですかぁ…。あんまり疲れためすぎないようにした方がいいですよ。なんて、目の下にいつもクマがある私が言うのもナンですけどね。」
「たしかに、あるよね…。」
「まぁ、これ遺伝なので消えないんですけどね。でも、いろいろ面倒くさくなった時には、『…すいません。』ってちょっと眉間にしわ寄せて伏し目がちにすると…。」
「めちゃめちゃ疲れてそう。」
「でしょ?結構この遺伝も悪くないですよ。」
「意外とやる時はやるねぇ。」
大笑いした。

この人の笑顔は本当に、周りの空気を温かくさせる。不思議なチカラのある人だ。