「やばい!」
うたた寝から覚めて、慌てて大きな荷物を持ち電車を降りた。この駅で降りたのは、菜苗と一匹の猫だけだった。
「ふう。」
ほっと息をつく。なんとなくではあるが、夢を見ていた気がする。
改札前にあるベンチに座ると、猫も横に座って来た。
「きみ、よく人と一緒に電車に乗っていたよね。私、きみを飼い主さんのところに帰したこともあるんだよ。…知らないよね?」
「ニャー。」
遠くの方で、女の人の声がして、「ルー」という名前は、この猫の名前だということを思い出した。
「ルー?ルー?」
菜苗は立ち上がって、どこからか聞こえてくる声に答えた。
「あの!ルーはここにいます!」
声はだんだん近づいてきて、
「あぁ、いたいた。またどこ行ったかと思っちゃったわよ。お姉さん、どうもありがとう。よくこの猫ってわかったわね。」
初老の女性が現われた。
「私、昔この近くに住んでいたんです。この猫ちゃんをお宅に届けたことがあったので、名前を聞いて思い出しました。」
優しい顔をしたこのおばさんの顔を、少しずつ思い出した。
「あら、そうなの。」
…疲れだろうか、耳鳴りがする。
「ねぇあなた、少し顔色が悪いわよ。大丈夫?」
正直なところ、
ここのところあまり眠れていなかった。
「少し最近疲れていて。」
「あらそうなの。時間はある?もしあったら、うちで休んでいきなさいよ。昔、ルーを届けてくれたお礼よ。」
そういって菜苗は、おばさんの家に招かれた。