ここで早和を慰めるのは、明の役目だもの。
なんとか人混みから抜け出した明が、こっちに来る。
あー、視線が痛い。
穴が開きそうな視線ってこういうのを言うのね。
…知りたくもなかったけど。
「はい、泣き虫な早和ちゃんを慰めてあげて?そこら辺はお手の物でしょ、明」
「お手の物って…」
苦笑しながら、それでも文句なんて一つも言わずに、というよりは嬉しそうに、明は早和を引き受けてくれた。
この2人を見てると、お互いにお互いが大切で、明は早和、早和は明じゃないとダメなんだなって実感する。
他の誰かじゃダメなのよ。
お互いを慈しむとか、そういう言葉の意味を教えられているみたい。
それにしてはじれったいんだけど。
今はまだナイトの明が、プリンスに変わるのはいつのことやら…。
心の中でそう呟いて、微笑みながら会話をしている2人を眺める。
しばらくそうしてから、お邪魔虫は消えることにした。
…女子の皆様の視線が痛いっていうのもあるけどね。
校舎の中に入って、ゆっくりと歩いてまわる。
ああ、ここは、初めて渉の本性を知った場所だ。
夏に入る少し前。
私達の仮面が剥がれた場所。
思えばあの頃から…、私は渉に惹かれていたのかもしれない。
いろんなことがあったね。
最初は、最悪な一年になると思った。
ずっとずっと嫌いだった“東雲渉”と同じクラスになるなんて。
でも。
渉の本性を知って。
信頼し合える友人になって。
何度も、助けてくれた。
いろんな時間を、一緒に過ごした。
その度に、新しい一面を知って。
それが、何故だか、嬉しくて。
そして――…