「結希?ごめん、泣くなよ…」


ぐすぐす泣き続ける私を下からのぞき込んで、眉をハの字にした渉が涙をぬぐってくれる。

それでも、私の心は大荒れだった。




だって、…悔しい。

なんで勝手に明のことが好きだとか決めつけるのよ。

なんで明を好きになっても無駄だなんて諭されなきゃいけないわけ?

なんにも、知らないくせに。

私が好きなのは…渉なのに。

どうしてそんな勝手なこと…っ!




普段なら、その勢いのまま渉のこと叩いてた。…たぶん。

だけど、今日は渉が何故か怒ってて。

その冷たい空気に私は動けなかったから。

だから、その衝動が涙になって溢れた。


「…っ、わたるの、ばかぁ…」


ひくっ、としゃくりあげながらそう呟くと、「うん、ごめん」って返ってきた。


「泣かせるつもりなんてなかったんだ。ごめん、頼むから…泣かないでくれよ」


そう言って、何度も何度も私の涙をぬぐってくれる。

そうやって優しいくせに、なんで訳わかんないとこであんなに怒るのよ…。

ムッとした顔で見上げると、渉はしゅん、と肩を落とした。

…かなり反省してるらしい。



反省してくれてるんなら、もういいから。

もう、いいから…私のこと、見てよ。

……いつもみたいに。



そう思ってから、渉の意識をこちらに向ける方法に思い当たって…ごそごそとカバンを漁る。


「…結希?」