渉の本性を知った、あの放課後と同じ――…。

どうしよう。

どうすれば、いいの?

カバンの中に、渉用のチョコは入ってる。

それを上手く渡すことができればいいのよね。

そんなことはわかってる。

わかってるのに…!


「……っ」



どうして身体が硬直しちゃってるのよーっ!!



あの時も、そうだった。

渉に話しかけたあの女子生徒を、素直に尊敬したもの。

渉の雰囲気に、身体が無意識に萎縮する。

…動けなく、なる。

固まったままの私の耳に口を寄せて、渉は小さな子に言い聞かせるように言った。


「もしかして、明のことが好きだったりする?でも、無駄だよ。明は早和ちゃんしか見ていない…。結希だって、わかってるだろ…?」


優しげな口調。

それなのに、声は冷たいままで…。

そのアンバランスさに、めまいがする。

…だけど。

それよりももっと私の感情を揺さぶったものは……



――唐突に、目の前がぼやけた。




「……っ、ふ…く…、ひっ…う…」

「え…っ?ゆ、結希…!?」


別に泣きたくなんてないのに、涙が後から後から溢れて止まらない。

突然涙を零し始めた私を見て、渉がおもしろいくらいに慌てだした。

それと同時に、さっきまでの冷たい、私を萎縮させる空気が消える。