「しょーがないから、この貸しはアンタんとこのパティシエのケーキでチャラにしてあげるわ」

「あぁ…、そういうやつだよな、結希って」


苦笑いをしながら「了解」とつぶやく渉。

別にいーじゃない。

渉の家のパティシエさんのケーキ、美味しいんだもん。

見返りにこれくらい求めたって、バチは当たらないわよね?


「俺の部屋、ここだから。中入ったら、そこらへんにそのチョコ置いてくれる?」


そう言いながら、渉が大きなドアを開ける。


「そこらへんって…、随分な言い様ね。女の子たちがせっかくくれたチョコなのに」

「…言っただろ。結希以外の女子からのチョコなんていらない」


ぶすっと拗ねたような声で呟かれた言葉に、思わず固まった。

今――



今、それを言うか!!



ギュッと、両手に持っている紙袋の持ち手を握りしめる。

ねぇ、それはなんなの?

どういうつもりなの?

下手したら告白のようにも聞こえるって…わかって言ってるの?

ねぇ、渉。

本当は――……






「…結希?」


部屋の中から呼びかけられて、ハッと我に返る。

慌てて中に入ると、渉は広い部屋の真ん中で、ソファーに座っていた。

渉が持っていたチョコの紙袋は、ソファーの前のガラス製のテーブルに置いてある。

とりあえず私も、それにならって紙袋をテーブルの上に置いた。

そして、渉の方を向いておどけた様に笑う。


「じゃ、オテツダイも終わったことだし?私は帰らせてもらうわね」