渡す機会は既に一度逃してしまっている。

それに持ってきてないって言っちゃったし…。

そうやって悩んでいる間にも、渉の席はチョコの山に埋め尽くされていく。

あれ、どうやって持って帰るのかしら。

どう見たってひとりで運べる量じゃない。

誰かに手伝って貰ったりするのかな。




――――のんきにそんなことを考えていた私は、まさかその役が自分に回って来るだなんてことはまったく思いついてもいなかった。



















「結希ー、こっちこっち」

「………なんで私がこんなこと…」

「気軽にこんなこと頼めるやつが他に思いつかなかったんだからしょうがないだろー」


まったく申し訳ないとか思ってない様子で渉が私を案内する。

今いる所は…広大な土地にたたずむ、東雲邸の玄関前。

なんで私が東雲邸にいるのかと言うと、理由は簡単。

渉の席に大量に積まれたチョコの山を、ここまで渉と一緒に運んできたから。

…やっぱり、ひとりで運べる量ではなかったらしい。

ぶつぶつ文句をつぶやきながら渉の後に続いて渉の自室を目指していると、ふいに渉が「それに、」と小さくつぶやいた。


「…なに?」

「他の女子に頼んだら、面倒なことになるって分かりきってるから。男子も、俺の家がこんなんだって知らないし。早和ちゃんは、明のほう手伝ってるし」

「…まあ、確かにね」


その点、私なら別に今更渉の家に来たって騒ぐわけでもないし、特に予定もないし…要するに一番便利な位置にいたってことか。