「…ぃ」
「ん?」
「…ないよ。渉の分。早和のしか作ってきてないもん」
ふいっと顔を背けて言った。
「…そっか」
「……っ」
少しだけ笑みを含んだその言葉が。
なんだか悲しそうな、さみしそうな感じに聞こえたのは、私の思い過ごしだろうか。
…私が、そうだといいのにって思ってるから?
一瞬、あげようかなって思った。
好きな人にチョコレートをあげたいって。
でも、恥ずかしくて…。
「ない」って言えば、恥ずかしい思いをしなくていいんじゃないかって、思ってしまった。
それに…こんなにクラス(主に女子)の視線が集まってる中で手渡しなんてできるはずもない。
「はい。解放してやるよ」
「…う、うん…」
それなのに。
私今、後悔してる。
さっきまでは離してほしいって思ってたくせに。
簡単に無くなったぬくもりが寂しくて。
やっぱり、「ある」って言っておけばよかった。
今さらなのに。
時間は戻せないのに。
すごく、すごく…後悔した。
「はぁぁ…」
「ゆ、結希ちゃん?どうしたの?」
大きなため息をついていると、大丈夫?と早和が心配そうにのぞきこんできた。